パチンコ店を出て、細い路地を少し歩く。ビルの隙間みたいなところに、小さな小窓がある。金属のトレーに景品を置くと、無言で現金が返ってくる。
俺は20年、この小窓に通いました。溶かした金は720万円です。
それなのに、なぜ店の中で換えないのか、一度も考えたことがありませんでした。
「パチンコの闇」を調べるつもりでした。裏で誰かが甘い汁を吸っている、その証拠を見つけてやろうと思って調べ始めました。
結果から書きます。出てきたのは、条文と国会答弁書でした。
結論:店が買い取ることを、法律が禁止しているから
根拠は風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)の23条です。パチンコ店に対して、こう禁じています。
- 現金や有価証券を賞品として提供すること
- 客に提供した賞品を、自分で買い取ること(いわゆる「自社買い」)
- 営業所の外に遊技球を持ち出させること
つまり、店は景品を渡すことしかできません。その景品を現金に換える行為を、店自身がやることは禁止されています。
買えないなら、誰かが買うしかない。だから店の外に、店とは資本関係のない別会社の買取所がある。これが答えです。
3つの会社が、バケツリレーをしている
この仕組みは「三店方式」と呼ばれています。登場するのは3者です。
| 誰 | やること |
|---|---|
| パチンコ店 | 出玉を「特殊景品」と交換して渡す |
| 景品交換所(あの小窓) | 客から特殊景品を現金で買い取る |
| 景品問屋 | 交換所から特殊景品を買い取り、店に卸す |
特殊景品は、店に戻ってまた出玉と交換されます。ぐるぐる回っています。
ちなみに中身は昔から変わってきていて、ライターの火打石、ボールペン、ゴルフボールなどが使われてきました。東京では1990年頃から金(きん)が入り、今は0.1グラムと0.3グラムの2種類が主流です。
建前は「客が自由に売っているだけ」
この仕組みが成り立つ理屈は、こうです。
店は景品を渡した。それを現金に換えるかどうかは、客が決めることだ。
自分の持ち物をどう処分するかは、個人の自由です。もらった景品を売るのも自由。だから、そこに店は関係ない、という組み立てになっています。
ずいぶん苦しい理屈に見えるかもしれませんが、この線引きは今も生きています。
2020年、長野県のパチンコ店で、店が客に渡した景品を直接買い取っていたとして、経営者と従業員が風営法違反の疑いで書類送検されています。自社買いは、今も摘発されます。
では、政府はどう言っているのか
ここがいちばん知りたかったところです。調べたら、国会にはっきり残っていました。
2016年11月18日、緒方林太郎 衆院議員の質問主意書に対する政府答弁書です。
「客がパチンコ屋から賞品の提供を受けたあと、パチンコ屋以外の第三者にその賞品を売却することもあると承知している」
「パチンコ屋は、客の射幸心をそそるおそれがあることから、風営法に基づき必要な規制がおこなわれている。その範囲内の営業については、刑法の賭博罪に該当しない」
読んでみて、思ったより率直でした。政府は「売られていること」を承知していると認めた上で、賭博罪にはあたらないと答えています。見て見ぬふりをしている、という話ではありません。
刑法185条には「一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない」というただし書きがあります。1953年11月10日の最高裁判決も、公安委員会が許可した方法の範囲内であれば、これにあたるという判断を示しています。
ただし、突っ込まれている点もある
翌年、もっと踏み込んだ質問が出ています。
2017年6月20日、高井崇志 衆院議員の質問主意書に対する答弁書です。高井議員はこう指摘しました。
三店方式が成り立つなら、交換所は問屋への売却で利益をほとんど得られないはずだ。それなのに、ホールが交換所に手数料を払って経営を支えているという指摘がある。それでは「独立している」と言えないのではないか。
政府の答えは、「手数料」の意味が明らかでないので答えにくい、というものでした。ただし同時に、こうも述べています。
古物商である第三者が、パチンコ営業者と実質的に同一と認められる場合には、風営法違反になる
つまり、独立していれば合法、実質的に同じ会社なら違法。線はそこに引かれています。
この仕組みを作ったのは、元警察官だった
ここは正直、いちばん引っかかりました。
三店方式は1961年に大阪府で生まれています。考案したのは元大阪市警の警察官だったとされ、これが「大阪方式」として全国に広がりました。
しかも最初の換金業務は、大阪身障者未亡人福祉事業協会という団体に委託されていました。社会的に弱い立場の人に仕事を作る、という建て付けです。
現在の形については、国際カジノ研究所の木曽崇氏が「業界に暴力団が介入するのを防ぐための自衛策」として導入されたと説明しています。菓子景品の時代、暴力団が客から利ザヤを取っていた。それを排除する目的があった、と。
脱法のための抜け道として作られた、という単純な話ではないようです。
警察との距離について、書ける範囲で書く
ここからは慎重に書きます。「報じられている」までの話で、俺が確かめた事実ではありません。
パチンコ台は、国家公安委員会の指定を受けた保安通信協会の型式試験を通らないと世に出せません。この協会の役員に警察出身者が就いていることは、複数の媒体で報じられています。約30年前のプリペイドカード導入も警察庁が主導したとされ、カード会社の会長に元管区警察局長が就任した例も報じられています。
これを「癒着だ」と断じる記事は、探せばいくらでも出てきます。でも俺は断じません。裏を取っていないからです。
ここで話を盛ると、この記事に書いた他の数字まで信用されなくなります。事実は事実、報道は報道として置いておきます。
数字で見ると、どれくらいの規模なのか
| 項目 | 実数 | 出典 |
|---|---|---|
| 市場規模(2024年) | 16.2兆円 | レジャー白書2025 |
| 参加人口 | 690万人(参加率7.1%) | 同 |
| 年間平均費用 | 8万9,900円 | 同 |
| ホール店舗数 | 2021年8,458店 → 2025年6,464店 | 警察庁 |
| 1店舗あたり台数 | 496.0台(5年で+52.7台) | 同 |
| 賞品の上限額 | 9,600円+消費税 | 風営法施行規則36条 |
店は4年で約2,000店減りましたが、1店舗あたりの台数は増えています。数が減ったのではなく、大型店に集まっているということです。
そして、こちらの数字も並べておきます。
厚生労働省の調査では、生涯でギャンブル等依存が疑われる状態になったことのある人は3.6%、約320万人と推計されています。そして依存が疑われる人が過去1年でいちばん金を使ったものは、パチンコ46.5%とパチスロ23.3%を合わせて約7割でした。
調べ終わって、俺が思ったこと
正直に書きます。調べても、怒りは湧きませんでした。
仕組みは思っていたより整理されていて、政府の見解も国会に残っていて、線引きも明確でした。「闇」を期待して調べ始めたのに、出てきたのは条文と答弁書でした。
そして、いちばん効いたのはここです。
この仕組みが合法かどうかと、俺が720万円溶かしたことは、何の関係もない。
誰かに騙されたわけではありません。あの小窓に通ったのは俺です。金を入れたのも俺です。計算した金額は、全部自分で出したものでした。
ただ、知っておいて損はないとは思います。店の外まで歩かないと現金にならないのは、そういう法律があるからだ。あの数十メートルは、たまたまそこにあるのではなく、意図的に置かれた距離です。
その距離を、20年間、何も考えずに歩いていました。
まとめ
- 換金所が店の外にあるのは、風営法23条が店の「自社買い」を禁止しているから
- 店・交換所・問屋の3者が回す仕組みを三店方式という
- 建前は「客が自分の持ち物を自由に売っているだけ」。2020年に自社買いで書類送検された例がある
- 政府は2016年11月18日の答弁書で「売却されていると承知している」と認めた上で、賭博罪にあたらないと答えている
- 三店方式は1961年に大阪で生まれ、考案者は元警察官とされる
- 警察OBの天下りについては報じられているが、断定はしない
ちなみに、この換金の仕組みを法律で禁止した国もあります。韓国です。15,618店が1年で278店になった話は別に書きました。
同じように風営法を読んで書いた記事が、もう1本あります。パチンコの釘を触るのは違法だったという話です。全国258台を調べて、検定どおりの台は0台でした。こちらも、闇を探しにいって出てきたのは条文でした。
やめた人がどうやってやめたのかは、240件を読んで数えた記事にまとめてあります。「強い意志」と書いた人は、130人中1人でした。
40代、まだ間に合う。
そしてもう1本、同じやり方で調べたものがあります。コンビニのタバコはなぜレジの後ろにあるのか。こちらは風営法ではなく、たばこ事業法と財務省の告示でした。闇を探しにいって条文が出てくるのは、パチンコだけではありませんでした。
風営法をもう一段めくると、今度は「決まっていないこと」が出てきました。パチンコの等価交換を禁止する法律は、どこにもなかった。条文が決めていたのは玉1個4円と景品9,600円だけで、交換率は一言も出てきません。
同じ風営法を、今度は「なぜ台が消えるのか」の側から読みました。パチスロ4号機はなぜ撤去されたのか。消していたのは規制そのものではなく、検定から3年という期限のほうでした。


コメント