飲み会の帰り道に、こう言われたことがある人へ。
「付き合い悪いな」
「酒飲まないなんて、つまらないだろ」
「人生、狭くならない?」
言われた側は、たいてい笑って流す。けれど家に着いてから、もう一度その言葉が戻ってくる。俺は本当に、つまらない人間なんだろうか。
先日、ある飲食店の経営者がSNSに「お酒を飲まない人が増えている。これって悪いこと?」と投げた投稿を見つけた。返信は100件を超えていた。俺はその返信を、上から順に49人ぶん、全部数えた。
結論から書く。
「つまらない」と言ったのは、49人中3人だけだった
49人のうち、飲まない人に向かって「つまらない」「人生が狭い」という意味のことを書いた人は、3人だった。
- 「悪いことですよ〜 つまらないじゃないですかー」
- 「そりゃー 人生狭めてる。でしょ!」
- 「個人的には詰まんねぇな、と感じる」
3人。49人中の3人だ。割合にすると6%。
残りの46人が何を書いていたかというと、こうなる。
- 飲まない選択をはっきり肯定した人:19人
- 「善悪で問う話ではない」と答えた人:10人
- 悪い・困ると書いた人:12人
- 自分は飲む・やめないと書いた人:5人
- 質問・冗談・事実報告:3人
いちばん多かったのは、飲まない人を肯定する側だった。次に多かったのが「そもそも良い悪いの話じゃないだろう」という反応だ。「何故その程度を善悪に結びつけるか意味わからん」と書いた人もいた。
飲み会の帰り道に刺さったあの一言は、確かに存在する。ただし16人に1人くらいの割合でしか出てこない。
3人目は、同じ場所で真逆のことも書いていた
ここがいちばん面白かったところだ。
「個人的には詰まんねぇな、と感じる」と書いた3人目は、同じスレッドの中で、こうも書いていた。
「酒の席だから、と言う色々がある気がするのですが、重要な事は何もないなぁ。飲まないなら飲まない方が金もかからないし体にも負担はない。合理的ではありますよね」
同じ人が、同じ場所で、「つまらない」と「合理的だ」を両方書いている。
つまり、この人は飲まない人を否定しているわけではない。ただ「自分の感覚としては物足りない」と書いただけで、頭では合理的だと認めている。一人の中に、両方ある。
俺たちが飲み会の帰り道で受け取るのは、たいていこの前半分だけだ。後半は口に出されないから、聞こえない。
「困る」と書いた12人を割ったら、半分は商売の話だった
次に、「悪い・困る」と書いた12人の中身を見た。
12人のうち6人は、人の話をしていなかった。
- 「造り酒屋潰れてていく」
- 「居酒屋は儲からないね」
- 「飲食店が減るのと従業員が減る」
- 「酒造メーカーにとっては…」
- 「税収が減るからダメです」
- 「需要が細って酒が高くなる可能性が…私にとっては由々しき事態です!」
造り酒屋、居酒屋、飲食店の従業員、酒造メーカー、税収、値上がり。全部、自分の商売か自分の財布の話だ。「飲まないあなたが悪い」ではなく「そうなると自分が損をする」と言っている。
批判に見えたものを割っていくと、人への非難はほとんど残らない。残ったのが、さっきの3人だった。
店主本人に聞いてみた
数えただけでは足りないと思ったので、投稿した本人にも聞いた。飲食店歴20年、開業7年の経営者だ。
「この数年で、売上に占めるお酒の割合はどれくらい変わりましたか」
返ってきた答えは、こうだった。
「売り上げに占めるお酒の割合はそれほど変わらず、全体的に減少しています」
お酒の比率は変わっていない。減っているのは全体だ、と。
これは、さっきの6人の心配とは少し違う。飲まない人が増えたから酒が売れなくなった、という話ではなく、来る人そのものが減っているという話になる。当事者の実感のほうが、外から数えた俺の見立てより具体的だった。
ちなみにこの店主は、返信の途中で2回「本当は良い悪いの話をしたかったわけではないんです」と書いていた。聞かれた側も、善悪の話にはしたくなかったらしい。
「人生狭めてる」と書いた本人に、聞いてみた
もうひとつやったことがある。「そりゃー 人生狭めてる。でしょ!」と書いた本人に、直接聞いてみた。
この人は同じ返信の中で「お酒を飲む事で、幅広い人脈ができた。お酒を飲まない人も含めて」とも書いていた。飲まない人とも人脈ができているなら、人脈を作ったのは酒ではないんじゃないか。そう思ったので、こう聞いた。
「お酒の席でできた人脈と、それ以外でできた人脈で、続き方に違いはありますか」
返ってきたのは、これだった。
「特にないと思います。お酒を飲む場にいても、その雰囲気が好きで、飲まないで溶け込んでる人もいっぱいいます」
「人脈を作ろうと思って飲んでる訳では、僕はありません。たまたま、知り合って、いい人に巡りあえた」
「人生狭めてる」と書いた本人が、「飲まないで溶け込んでる人もいっぱいいる」と書いている。
3人のうち2人が、自分で自分の言葉を薄めた形になった。
そしてこの答えを読んで、狭いか広いかを決めているのは酒の有無ではなく、その場に行くかどうかだけなんだと思った。飲まなくても、その席にいる人はいる。
飲まない側は、何と言っていたか
49人の中には、実際に飲まない人も何人もいた。理由がそれぞれ違うのが面白かった。
孫と、仕事と、震災。
「私は、呑めるけど、敢えて飲まない。孫達と一緒に暮らしてるし、仕事を持ってるから、震災被害でもあるし、何かあったら子供達の安全のため、シラフでいなきゃいけない」
この人は飲めないのではなく、飲める人が選んで飲んでいない。理由が「守るものがあるから」だった。
体調。「コロナでやめました。すこぶる体調良いです」
金。「酒もタバコも今日日たかいし飲めない方がいいです」
そして、いちばん短かったのがこれだ。25歳の甥がいるという人の話で、その甥は一滴も飲まない。体質でもない。理由を聞いたら一言だけ返ってきたという。
「酒に興味ない」
理由がない。説明する気もない。たぶんこれが、いちばん新しい形なんだと思う。上の世代は「飲まない理由」を用意しないといけなかったが、下の世代はそもそも理由を求められていない。
「つまらない」と言われてきた側の話
49人の中に、50代の人がこう書いていた。
「平成の会社員時代、飲み会に無理矢理連れて行かれ、モラハラ、パワハラで飲まされましたね」
「酔っ払い、無駄な飲み会は、嫌いなので、飲む飲まないは個人の自由でしょ」
「つまらない」と言われ続けた側には、こういう背景がある。今もし誰かがきつい言い方で「飲む飲まないは自由だ」と返してきたら、それは今のあなたに怒っているのではなく、たぶん平成の飲み会に怒っている。
俺の場合を正直に書いておく
ここまで飲まない側の話を並べてきたが、俺自身は酒をやめていない。
週4で飲む。中心は家飲みだ。仕事や付き合いの飲み会に出ることもある。タバコは13年吸って9年前にやめたし、パチンコは20年で720万円溶かしてやめた(パチンコがやめられないのは意志が弱いからじゃない)。でも酒はやめていない。
つまり俺は、この記事で数えた49人の中で言えば「自分は飲む」側の5人と同じ場所に立っている。飲まない人を擁護しに来た人間ではなく、飲む側にいる人間として数えた。だからこそ、3人という数字は自分にとっても意外だった。
飲む側にいると、飲まない人を「つまらない」と言う声のほうが大きく聞こえる。実際に数えてみたら、そんなに多くなかった。
まとめ:言われるほど、思われてはいない
この記事でわかったことを、もう一度並べておく。
- 49人のうち、飲まない人に「つまらない」と言ったのは3人
- その3人のうち1人は同じ場所で「合理的ではありますよね」とも書いていた
- もう1人は、聞いてみたら「飲まないで溶け込んでる人もいっぱいいます」と答えた
- 「困る」と書いた12人のうち6人は商売と財布の話で、人の話ではなかった
- いちばん多かったのは、飲まない選択を肯定する19人だった
飲み会の帰り道で刺さった一言は、確かに誰かが言ったものだ。なかったことにはできない。ただ、その一言は49人のうちの3人ぶんの声であって、部屋にいた全員の総意ではなかった。しかもその3人のうち2人は、続きを聞けば別のことも言う。
だから、席に座り続けていい。飲まないまま、その場にいていい。「飲まないで溶け込んでる人もいっぱいいます」と書いたのは、あなたを狭いと言った側の人間だ。
もし飲む量を減らしたい、いっそやめてみたいと思っているなら、始め方はこちらにまとめてある(【保存版】断酒の始め方)。飲み会そのものが不安なら、禁煙の側で同じことを9人に聞いた記事もある(禁煙中、飲み会の時だけ吸いたくなる)。
40代、まだ間に合う。


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