俺は20年、パチンコを打っていた。負けた額は720万円だ。
店に入ると、まず釘を見た。
ヘソが開いているか、風車の上がどうなっているか、一般入賞口に玉が入りそうか。しゃがんで台の前で首を傾けている中年男は、たいてい釘を見ている。俺もその一人だった。
そして20年間、一度も考えなかったことがある。
釘が「読める」ということは、店が釘を触っているということだ。
毎回それを確認してから座っていたのに、俺は一度も「それって、いいのか?」と思わなかった。
今回、調べてみた。結論から書く。
結論:釘を触るのは違法だった。しかも罰則まである
パチンコ店が釘を触るのは、風営法違反である。グレーではない。条文がある。
| 条文 | 中身 |
|---|---|
| 風営法 第20条 | 営業者が遊技機の構造・性能を変更することを禁じている |
| 風営法 第26条 | 違反した場合の行政処分(営業停止30日〜、または許可取消) |
| 風営法 第50条 | 刑事罰(懲役1年以下、または罰金100万円以下) |
パチンコ台は、メーカーが作って、公安委員会の検定を通ったときの状態が「正解」として登録されている。
店がその状態から釘を動かせば、それは「改造」になる。動かしたければ、あらかじめ変更承認を取らなければならない。取らずに動かせば無承認変更だ。
そして無承認変更は、業界では「A量定」と呼ばれる区分にあたる。一発で営業停止も許可取消もありうる、いちばん重い側の違反だと説明されている。
ここまでは、調べれば5分で出てくる。
問題はこの先だった。
2015年、全国で一斉に調べた。結果が異常だった
2015年、警察庁の要請を受けて、業界団体が作った「遊技産業健全化推進機構」が全国調査を行った。
| 調査 | 数字 |
|---|---|
| 時期 | 2015年6月〜8月 |
| 対象 | 全国161店舗・258台 |
| 一般入賞口に玉がまったく入らなかった台 | 🔴約6割 |
| 🔴🔴 検定基準を満たしていた台 | 🔴🔴1台もなかった |
もう一度書く。258台調べて、検定どおりだった台は、ゼロだった。
当時、国内には約295万台のパチンコ台があった。
そのほぼすべてが法令違反の状態にある可能性がある、と報じられた。
俺が20年かけて座り続けた台は、たぶん1台も検定どおりではなかったということだ。
何をしていたのか:入り口を狭め、出口を広げる
報道によれば、改造の中身はこうだ。
- 一般入賞口を狭くする → 玉が入らなくなる(=細かい払い出しが消える)
- 始動口を広げる → 大当たりの抽選は受けやすくなる
これを聞いたとき、腹の底が冷えた。俺が「良い釘」だと思って選んでいた台は、この改造がされた台のことだったからだ。
始動口が開いている台は、玉が減りにくく見える。だから座る。
でも一般入賞口は同時に殺されているので、細く長く生かされながら、確実に削られていく。
俺は前に「あれは勝負ですらなかった」と書いた。
訂正する。勝負ですらなかったどころか、盤面そのものが検定を通っていなかった。
で、誰が罰せられたのか
ここが今回いちばん驚いたところだ。
条文がある。罰則もある。全国調査で「1台も基準を満たしていない」と出た。
ならば当然、処分が出るはずだ。ところが——
| どうなったか | |
|---|---|
| パチンコ店への営業停止命令 | ❌ 出ていない |
| メーカーへの検定取消処分 | ❌ 出ていない |
| 実際に行われたこと | 🟡 メーカーによる「自主回収」 |
2016年6月27日、全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)が、検定機と性能が異なる可能性のある台を、その年の年末までに撤去する方針を示した。
対象は約72万台。
ただし、これは処分ではない。「自主的に」回収するという建て付けであり、法的な強制力は一切ない。
弁護士ドットコムの記事では、山脇康嗣弁護士が「責任の所在が曖昧になっている」と指摘している。メーカーへの損害賠償請求や、客からの集団訴訟の可能性、さらには警察の不作為を問う道まで、理論的にはありうると述べられている。
つまり「全員が違反していた」という結論と、「誰も処分されなかった」という結果が、同時に成立している。
なぜ、全店がやっていたのか
ここが今回の本当の謎だった。違反だと分かっていて、なぜ全国が同じことをしていたのか。
調べて見えてきたのは、こういう構造だ。
釘を動かしたいなら、あらかじめ公安委員会の変更承認を取ればいい。法律はそう作られている。
ただし承認は、申請して、検査を受けて、下りるのを待つ手続きだ。「今日は回収したいから朝イチで少し締める」という日々の運用に、この手続きは物理的に噛み合わない。
一方で、店の収支は毎日動く。新台を入れれば億単位の投資が要る。近隣の店とも競争している。
そして、店が日々いじれる場所は、事実上そこしかなかった。
台の中身(確率や出玉性能)はメーカーが作って検定を通したもので、店は触れない。触れば即アウトの領域だ。
残ったのが盤面の釘だった。唯一の調整弁が、法律上いちばん触ってはいけない場所だったということになる。
だから「悪い店だけがやっていた」という話にはならなかった。258台のうち検定どおりが1台もなかった、という結果は、そういう意味だ。個別の不正ではなく、業界の運用そのものが法律とずれていた。
そして、そのずれが表に出たとき、行政は全部を摘発するのではなく、「自主回収」という言葉で着地させた。295万台を一斉に止めれば、産業がその場で終わるからだ。
俺が知りたかったのは「誰が悪いのか」だったが、出てきた答えは違った。
全員がそこにいて、誰も止められなかった、という話だった。
調べて分かったのは、答えではなく順番だった
俺がいちばん引っかかったのは、ここだ。
釘は「触ってはいけない」のではなく、「触った状態で回っていた」。
そして触っていることは、客である俺のほうが先に知っていた。だから釘を見ていたのだ。
知らなかったのは、違法だということだけ。
俺は違法状態を、自分の目で毎回確認してから、金を入れていた。
この構図は、換金所が店の外にあるのと同じだ。韓国が15,618店を278店にした話を調べたときも、同じ感触があった。誰も嘘はついていないのに、全体としては筋が通っていない。その中に20年いた。
今も釘は触られているのか
正直に書く。ここは断定できなかった。
2016年以降、業界は「釘に触れない」方向の運用に変わったとされ、台の入れ替えサイクルも短くなった。だが「今、全国の台がすべて検定どおりか」を確かめた公開データは、俺には見つけられなかった。
だから書けるのはここまでだ。
2015年の時点で、調べた258台のうち検定どおりの台は1台もなかった。これは報じられた事実。その後どうなったかは、外からは見えない。
換金所がなぜ店の外にあるのかを調べたときも同じだった。闇を探しにいったのに、出てきたのは条文と、行政の答弁と、「自主的に」という言葉だけだった。
コンビニのタバコがなぜレジの後ろにあるのかを調べたときも、やはり同じだった。出てきたのは、たばこ事業法と財務省の告示だった。
まとめ:数字だけ持って帰ってほしい
- パチンコ店が釘を触るのは風営法20条違反(無承認変更)
- 罰則は営業停止30日〜または許可取消(26条)、懲役1年以下または罰金100万円以下(50条)
- 2015年、警察庁の要請で161店舗・258台を調査
- 🔴 検定基準を満たしていた台は1台もなかった。一般入賞口に玉が入らない台が約6割
- 当時の国内設置台数は約295万台
- 2016年、約72万台が撤去対象に。ただし「自主回収」で法的強制力なし
- 🔴 店への営業停止も、メーカーへの検定取消も出ていない
俺が20年で置いてきた720万円のうち、いくらが「検定どおりでない盤面」に吸われたのかは、もう計算できない。
ただ、釘を読める自分を、ちょっと誇らしく思っていた20年前の自分に、これだけは言っておきたい。
それは腕ではない。読めているのではなく、読ませてもらっていただけだ。
やめ方はこちらに7ステップで書いた。金額の全体像は生涯負け額1,440万円の記事にある。
同じ風営法を、今度は「交換」の側から読んだ記事もあります。パチンコの等価交換を禁止する法律は、どこにもなかった。釘は条文で決まっていたのに、交換率は条文に一言も出てきませんでした。
その「検定」が切れるとどうなるかも調べました。パチスロ4号機はなぜ撤去されたのか。釘と同じで、ここでも効いていたのは検定でした。期限が来た台は、更新されなければ自動的に置けなくなります。
40代、まだ間に合う。
【この記事で使った出典】
- 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律(風営法)第20条・第26条・第50条
- しんぶん赤旗「違法パチンコ台 横行/賭博性高める改造295万台」(2015年12月27日)
- 弁護士ドットコムニュース「『客殺し』のパチンコ不正改造、メーカーと警察…」(山脇康嗣弁護士)
- 遊技産業健全化推進機構による全国立入調査(2015年6〜8月)
- 全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)2016年6月27日の方針
※法令・行政の運用は変わります。数字は報道および公表資料の時点のものです。断定できない部分は「報じられている」と明記しました。


コメント