パチンコ屋はなぜ朝から並ぶのか|店が「今日は勝てます」と言えないからだった

早朝、開店前のパチンコ店の前に並んで待つ人々と、その列に立つ40代の男性 マネー

朝、パチンコ屋の前に列ができている。開店は10時なのに、8時には人が立っている。

俺も並んでいた側だ。パチンコとパチスロに20年で720万円溶かしたうちの、何回かは、あの列の中にいた。ただ、なぜ並んでいたのかを言葉にできたことは、一度もない。「いい台を取るため」としか答えられない。

調べた。答えは、俺が思っていたのと逆だった。

※パチンコの世界では「出る」という言い方をしますが、意味は「勝てる」です。この記事では、なるべく「勝てる」と書きます。

結論:店が「今日は勝てます」と言えないから、客が並んでいる

列は、客が勝手に作っているのではない。店が情報を出せない仕組みになっているから、客が自分の身体で埋めている。並ぶという行為は、遮断された情報の代わりだった。

では、誰がその情報を止めているのか。ここからが本題だ。

風営法を開いた。広告の条文は、たった一文だった

パチンコ店は風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)でいう風俗営業にあたる。広告と宣伝については、第16条にこう書いてある。e-Gov法令検索で条文そのものを確認した。

(広告及び宣伝の規制)
第十六条 風俗営業者は、その営業につき、営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない。

これで全文だ。一文で終わっている。

読み返してほしい。「勝てる」に関わる言葉が、ひとつも出てこない。出玉も、設定も、釘も、イベントも書かれていない。条文が言っているのは「営業所の周辺で、風俗環境を害するような方法で広告するな」という、場所と方法の話だけだ。

俺はてっきり、「出る台があるとは言ってはいけない」と法律のどこかに書いてあるのだと思っていた。書いていなかった。

では、誰が「勝てます」を禁じているのか

実際には、パチンコ店は次のようなことを言えない。

  • この機種は高設定が入っている(=勝ちやすい設定にしてある)
  • この台は釘が甘い(=玉が入りやすく調整してある)
  • 特定の日をイベント日として数字で匂わせる
  • ◯円交換など、玉を現金に替えるときの割合をほのめかす

これらを禁じているのは、条文ではない。業界団体が自分たちで決めたルール——広告宣伝ガイドラインだ。

2025年5月29日、パチンコ店の業界4団体(全日遊連・日遊協・MIRAI・余暇進)が「広告宣伝ガイドライン(第3版)」を制定したと報じられている。制約の類型は9つに広がり、「強化」「期待」といった勝てそうだと思わせる言葉そのものが禁止の対象になった。都道府県ごとにバラバラだった自主規制を撤廃し、全国統一のルールに移したのも、この第3版だとされている。

つまり、「勝てます」と言えない理由は、法律ではなく申し合わせのほうにあった。

この形には見覚えがある。パチンコの等価交換を禁止する法律は、どこにもなかった。あのときも、条文には交換率が一言も出てこず、やめさせていたのは都道府県の組合の申し合わせだった。同じ構造が、広告のほうにもあった。

情報が止まると、客は時間で払う

店が「今日はこの機種が勝ちやすいです」と言えれば、客は開店前に並ぶ必要がない。言えないから、客は推測する。推測の材料は、前日のデータ、店の癖、そして「並んでいる人の数」そのものだ。

列に並ぶ人は、列を見て並ぶ。情報がないところで、行列そのものが情報になる。

ここで効いてくるのが、この規制が誰のために作られたかという点だ。射幸心を煽る広告を止めるという目的そのものは、客を守る側にある。ただ、結果として起きているのは、客が朝から1時間立っているという現象だった。

並んだ時間は、どこにも数えられていなかった

以前、パチンコに溶かした720万円の記事で、20年分の時間を計算した。月20時間、20年で4,800時間。丸200日分だった。

あの計算には、並んでいた時間が入っていない。

仮に月2回、朝1時間並んだとする。これは俺の実際の記録ではなく、前提を置いた試算だ。

  • 月2回 × 12ヶ月 × 20年 = 480回
  • 480回 × 1時間 = 480時間
  • 20日分

打った200日に、立っていた20日が乗る。しかもこの20日は、玉に触ってすらいない。台の前に座る前に、すでに20日使っていた。

金は「負けた」と思える。打った時間も、まだ遊んだ実感がある。並んだ時間だけは、負けた気も遊んだ気もしないまま消えている。

20年並んでいて、俺は条文を読んだことがなかった

正直に書く。俺は列の中で、隣の人と同じように、開店時間を待っていた。そのあいだ一度も「なぜ店は何も言わないのか」と考えたことがない。言わないものだと思っていた。

調べてみれば、法律は「周辺の環境を害するな」としか言っていなかった。言わせていなかったのは、業界が自分で決めたルールだった。そして2025年には、勝った台のランキング(出玉ランキング)の掲示が解禁されたと報じられている。特定の日だけの結果を配信するのはNGなど条件はつくが、「言えない」の範囲は、いま動いている最中だということになる。

あの列は、ずっとそこにあるものだと思っていた。違った。ルールが変われば、列の理由も変わる。

まとめ

  • 風営法16条は「営業所周辺における清浄な風俗環境を害するおそれのある方法で広告又は宣伝をしてはならない」という一文だけ(e-Gov法令検索で確認)
  • 条文には「勝てる」に関わる言葉がひとつも出てこない(出玉・設定・釘・イベント、どれも書かれていない)
  • 「勝ちやすい設定が入っている」「釘が甘い」などを禁じているのは、パチンコ店の業界4団体が自分たちで決めた広告宣伝ガイドラインだと報じられている
  • 2025年5月29日の第3版で制約は9類型に拡大、都道府県ごとの自主規制は全国統一ルールへ移行したとされる
  • 同じ第3版で勝った台のランキングの掲示は解禁されたとも報じられている
  • 店が言えないぶんを、客は並ぶという時間で埋めている
  • 並んだ時間は、打った時間の計算に入っていない

20年通って、俺は列の理由を一度も調べなかった。調べたら、答えは法律ではなく申し合わせの側にあった。

知ったところで、あの朝に立っていた時間は戻ってこない。ただ、あれは「そういうものだから」並んでいたのではなかった。誰かが決めたルールの、一番端に立たされていただけだった。

同じように条文を読んだ記事が、ほかにもあります。


【この記事で使った出典】

  • 風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律 第16条(e-Gov法令検索で条文を確認)
  • 広告宣伝ガイドライン(第3版)に関する業界メディアの報道(2025年5月29日制定・パチンコ店の業界4団体)

※ガイドラインの内容と改定時期は業界メディアの報道にもとづきます。断定できない部分は「報じられている」と明記しました。法令・行政の運用および業界の自主規制は変わります。数字と内容は記事執筆時点のものです。

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