2026年7月28日の夜、熊本で震度7の地震が起きた。
俺が住んでいるのは、熊本の隣の県だ。かなり揺れた。ただ、うちは何も壊れなかった。棚から物が落ちることもなかった。被害はゼロだ。
だから翌日、俺がやったのは片付けじゃなかった。自分がいくら保険で守られているのかを、初めて調べることだった。
先に書いておく。俺は賃貸で、地震保険に入っていない。そして全部調べて計算した結果、俺は入らないことに決めた。
ただしそれは「保険がムダだから」ではない。数字を出したら、俺が守るべきものが思ったより小さかったからだ。同じ計算をして逆の答えになる人も、たくさんいる。それも含めて全部書く。
調べていて分かったことがもうひとつある。ネットに出てくる地震保険の記事は、ほとんどが持ち家の人向けなのだ。「建物5,000万円まで」という話ばかりで、賃貸の人間が読んでも、自分の話が一行も出てこない。だからこれは、賃貸の人間が電卓を叩いた記録だ。
先に結論だけ。賃貸で地震保険はいくら払って、いくら出るのか
細かい話の前に、数字だけ置いておく。保険料がいちばん安い地域で、家財500万円で契約した場合だ。
| 払うお金 | 木造アパート:年5,600円(月467円) 鉄筋マンション:年3,650円(月304円) |
| 全損なら出るお金 | 500万円 |
| 大半損なら | 300万円 |
| 小半損なら | 150万円 |
| 一部損なら | 25万円 |
そして、俺が電卓を叩いていちばん静かになった数字がこれだ。
木造で月467円。1日あたり15円。
俺が13年吸っていたタバコは、1日631円だった。
タバコ1日分の631円で、家財500万円の地震保険が41日分買える。タバコ1ヶ月分の19,200円なら、3年4ヶ月分だ。
9年前の俺は、これを毎日燃やしていた。だから「高いから入らない」という結論には、絶対にならなかった。俺が入らないと決めたのは、値段の話ではない。
大前提① 火災保険だけでは、地震で燃えても1円も出ない
ここが最初のつまずきどころだった。
財務省の説明にはこう書いてある。「火災保険では、地震を原因とする火災による損害や、地震により延焼・拡大した損害は補償されません」
つまり、火災保険に入っていても、地震で家が燃えたら対象外ということだ。地震・噴火・それによる津波が原因の損害は、地震保険を別に付けていないと1円も出ない。
そして地震保険は単独では入れない。必ず火災保険とセットで、火災保険の保険金額の30%〜50%の範囲内でしか設定できない。限度額は建物5,000万円・家財1,000万円だ。
「保険には入ってるから大丈夫」は、地震に関しては通用しない。契約書を見ないと分からない。
大前提② 賃貸は「建物」に入れない。入れるのは家財だけ
ここが、賃貸の人間にとっていちばん大事なところだ。
賃貸の建物は大家さんのものだ。自分の持ち物じゃないから、借りている側は建物に保険をかけられない。建物が倒れても、その保険金は大家さんに入る。俺には入らない。
じゃあ賃貸の人間は何に入れるのか。家財だけだ。
冷蔵庫、洗濯機、テレビ、パソコン、食器、家具、服。地震で全部ダメになったとき、それを買い直す金が家財の地震保険だ。
ここで、もうひとつ引っかかったことがある。
賃貸を契約するとき、不動産屋で必ず火災保険に入らされる。あの保険には「借家人賠償責任」というのが付いている。ただしこれは、自分が火事を出したときに大家さんに払う賠償のための保険だ。自分の家財を買い直すためのものではない。
さらに言えば、あの火災保険に地震保険が付いているとは限らない。付けるかどうかは任意だからだ。
いくら出るのか。金額は4段階しかない
地震保険でいちばん誤解されているのが、ここだと思う。
地震保険は、壊れた分だけ払ってくれる保険じゃない。損害を4段階に分類して、その段階ごとに決まった割合を払う仕組みだ。
| 損害の区分 | 支払われる割合 | 家財500万円なら |
| 全損 | 保険金額の100% | 500万円 |
| 大半損 | 保険金額の60% | 300万円 |
| 小半損 | 保険金額の30% | 150万円 |
| 一部損 | 保険金額の5% | 25万円 |
注目してほしいのは一部損の5%だ。500万円の契約でも25万円しか出ない。
そして、実際にいちばん多く認定されるのが、この一部損なのだ。
家財の認定基準は、建物とまったく違う
もうひとつ、賃貸の人間が知らないと損をするポイントがある。
建物の認定は「主要構造部の損害が時価の何%か」で決まる。柱や基礎の話だ。一方、家財の認定は「家財全体のうち、何%がダメになったか」で決まる。
| 区分 | 建物(主要構造部の損害割合) | 家財(家財全体の損害割合) |
| 全損 | 50%以上 | 80%以上 |
| 大半損 | 40%以上50%未満 | 60%以上80%未満 |
| 小半損 | 20%以上40%未満 | 30%以上60%未満 |
| 一部損 | 3%以上20%未満 | 10%以上30%未満 |
家財の場合、テレビ・食器・家具といった品目ごとに損害割合が決められていて、それを足し上げて判定する。10%を超えないと一部損にもならない。
ここは後で効いてくるので、覚えておいてほしい。震度7の隣県でかなり揺れたうちは、この10%に1ミリも届いていない。皿1枚割れなかったからだ。
賃貸で契約したら、実際いくら払うのか
地震保険の保険料は、都道府県と建物の構造の2つだけで決まる。会社によって値段が変わらない、珍しい保険だ。
都道府県は保険料の安い順に3つの等地に分かれていて、いちばん安い1等地の基準料率は、2022年10月以降で保険金額1,000円あたりイ構造(鉄筋・鉄骨など)0.73円、ロ構造(木造など)1.12円となっている。
これで計算するとこうなる。年間の保険料だ。
| 家財の保険金額 | 鉄筋・鉄骨(イ構造) | 木造(ロ構造) |
| 300万円 | 年2,190円(月183円) | 年3,360円(月280円) |
| 500万円 | 年3,650円(月304円) | 年5,600円(月467円) |
| 1,000万円(上限) | 年7,300円(月608円) | 年11,200円(月933円) |
自分がイ構造かロ構造か分からない人も多いと思う。俺も正直、はっきり分かっていない。ざっくり言えば、木造アパートならロ構造、鉄筋コンクリートや鉄骨のマンションならイ構造だ。賃貸契約書か、火災保険の証券に書いてある。
なお、地震が多いとされる地域は等地が上がり、保険料はこれより高くなる。自分の県がどこに当たるかは、財務省のサイトに一覧が出ている。
熊本地震で、実際にいくら支払われたのか
ここからは実データだ。想像じゃない。
2016年の熊本地震で支払われた地震保険金は、最終的に3,898億円。東日本大震災の1兆2,749億円に次ぐ、史上2番目の規模だった。
そして、日本損害保険協会が地震発生の約3週間後に出した速報がこれだ。
| 区分 | 事故受付 | 支払件数 | 支払保険金 |
| 熊本県 | 134,102件 | 33,362件 | 約563.7億円 |
| 大分県 | 7,367件 | 3,143件 | 約23.2億円 |
| 全国合計 | 151,518件 | 40,342件 | 約610.0億円 |
1件あたりに割り戻すと、熊本県は約169万円、大分県は約74万円だ。
この差が、そのまま「震源からの距離」の差だと思う。震源に近い熊本県では全損・半損が出た。離れた県で出たのは、その多くが一部損だったはずだ。だから1件74万円まで落ちる。
ここで注目してほしいのは、支払われた金額よりも「受付151,518件に対して、支払いは40,342件」のほうだ。この時点で調査が終わっていたのが45,475件なので単純比較はできないが、それでも調査が済んだうちの1割前後は、請求しても支払いに至っていない。
揺れた実感があっても、認定基準に届かなければ0円ということだ。俺が一部損の「10%」にこだわる理由がここにある。
賃貸の俺が「入らない」と決めた3つの理由
ここまで調べて、俺は入らないことに決めた。理由は3つある。
理由① 守るべき家財が、そもそも500万円もない
これがいちばん大きい。
うちにある家財を思い浮かべてみた。冷蔵庫、洗濯機、テレビ、パソコン、ベッド、食卓、食器、服。全部いっぺんに買い直したとして、150万円くらいだと思う。ブランド家具もないし、高価な趣味の道具もない。
ネットの記事はどれも「家財500万円」で計算している。でもそれは、家を建てて家具も一式そろえた家の話だ。賃貸で暮らしている40代の家に、500万円分の家財はない。
じゃあ家財150万円で契約すればいい、という話になる。木造なら年1,680円だ。ただしそうすると、出るほうもこうなる。
| 全損(家財の80%以上がダメ) | 150万円 |
| 小半損(30〜60%) | 45万円 |
| 一部損(10〜30%) | 7.5万円 |
現実にいちばん多い一部損で、7.5万円。
理由② 賃貸には「建て直す」がない
持ち家の人が地震保険に入る本当の理由は、家財じゃないと思う。家がなくなってもローンだけが残るからだ。
住む場所を失った上に、住んでいない家のローンを20年払い続ける。これは保険で埋めないと詰む。だから持ち家の人にとって地震保険は、家財の保険じゃなくて人生の保険なんだと思う。
賃貸にはそれがない。建物が壊れたら、大家さんの問題になる。俺が失うのは家財と引っ越し代だ。最悪の場合、引っ越せる。これは持ち家の人には絶対にできないことで、賃貸のいちばん大きい強みだと思う。
理由③ 自分の家で実測したら、認定基準に届かなかった
7月28日、震度7の隣の県で、かなり揺れた。
その結果うちは、皿1枚割れていない。家財の損害割合は0%だ。一部損の10%には、まったく届かない。
もちろん「今回たまたま無事だった」だけかもしれない。震源の真上ならこうはいかない。ただ、自分の家で一度実測できたという事実は、想像より重い。俺はこれまで「地震が来たらどうなるか」を想像で語っていた。今回、初めてデータが1つ取れた。
ただし、逆の答えになる人はたくさんいる
ここは正直に書く。俺の結論は、俺の条件でしか成立しない。
次に当てはまる人は、俺と逆の計算になると思う。
- 持ち家でローンが残っている人……これは話がまったく別だ。家を失ってローンだけ残るリスクは、保険以外で埋めようがない
- 家財が多い家……子どもが複数いる、楽器や機材がある、家具にお金をかけている。買い直しの総額が大きい人ほど保険は効く
- 貯金が薄い人……家財を一度に買い直せない人にとっては、7.5万円でも意味がある。俺は「なくても何とか買い直せる」前提で計算している
- 等地の高い地域・古い木造に住んでいる人……揺れる確率も、壊れる確率も違う
「入らないほうがいい」ではなく、「俺の場合は入らないという答えが出た」だ。ここを混ぜたら、この記事はただのポジショントークになる。
公的支援はいくら出るのか。賃貸は特にきびしい
「保険に入ってなくても、国が何か出してくれるだろう」
正直に言うと、俺はどこかでそう思っていた。これも調べた。
内閣府の被災者生活再建支援制度は、基礎支援金と加算支援金の合計で最大300万円だ。
| 基礎支援金(被害の程度) | 全壊100万円/大規模半壊50万円 |
| 加算支援金(再建の方法) | 建設・購入200万円/補修100万円/賃借50万円 |
最大300万円というのは、家が全壊して、なおかつ家を建て直すか買う人の金額だ。
賃貸の人がまた賃貸に移る場合、加算支援金は50万円になる。全壊で基礎支援金と合わせても150万円。しかも単身世帯だと、それぞれ4分の3になる。
そして重要なのは、これは家財を買い直す金ではないということだ。冷蔵庫も洗濯機もテレビも布団も、この中から出すことになる。
俺が「入らない」と決めた以上、ここは自分で背負う部分になる。入らないと決めることは、リスクがなくなることじゃない。自分で持つと決めることだ。そこは誤魔化さないでおく。
これはタバコをやめたときと、同じことだった
ここまで書いて気づいたことがある。
俺がタバコをやめられたのは、意志が強くなったからじゃない。電卓を叩いて、月19,200円という数字を見たからだ。数字にした瞬間に、判断ができるようになった。
今回もまったく同じだった。
「地震保険に入るべきか」で悩んでいる間、俺は9年間なにも動かなかった。高いのか安いのかも、いくら出るのかも知らないまま、「いつか考えよう」で終わっていた。
それが、「月467円」「一部損なら7.5万円」「うちの家財は150万円」と3つ並べた瞬間に、30分で決まった。
大事なのは「入る」でも「入らない」でもなかった。数字にして、自分で決めた状態になることだった。
このブログでずっと書いてきたのは、全部やめろということじゃない。固定費も削れるものは削ればいいし、医療保険も付加給付を調べたら見直すことになった。逆に、俺は酒はやめていない。楽しむと決めて残している。
やめるものを数字で選ぶのと同じで、入らないものも数字で選べばいい。知らないまま放置しているものは、選んだことにならない。ただ見ていないだけだ。
まとめ
- 火災保険だけでは、地震が原因の火災は1円も出ない
- 賃貸で入れるのは家財だけ。建物は大家さんのもの
- 出る金額は全損100%・大半損60%・小半損30%・一部損5%の4段階だけ
- 家財は損害割合10%を超えないと一部損にもならない
- 保険料がいちばん安い地域なら、家財500万円で年3,650円〜5,600円(月304円〜467円)。タバコ1日分で41日分
- 熊本地震では全国で151,518件の受付・40,342件に約610億円(最終3,898億円)
- 公的支援は最大300万円だが、賃貸で再建する場合の加算は50万円
- 俺は入らないことにした。守る家財が150万円ほどしかなく、賃貸にはローンが残らないから
今夜やることは1つでいい。賃貸契約のときに入った火災保険の証券を出して、「地震保険」の欄があるかどうかだけ見る。
あったなら、いくらで契約しているかを見る。なかったなら、それが今の自分の状態だ。
俺はそれをやって、入っていないことを知り、そのままにすると決めた。入っていないことより、9年間それを知らずにいたことのほうが、よっぽど怖かった。
40代、まだ間に合う。
※この記事は2026年7月時点の公開情報(財務省「地震保険制度の概要」、日本損害保険協会、損害保険料率算出機構、内閣府防災情報)をもとに、筆者が自分の状況で計算したものです。保険料や認定基準は改定されることがあり、実際の契約内容・支払額は個別の契約と損害調査によって決まります。「入らない」という結論はあくまで筆者個人の条件(賃貸・家財150万円程度・ローンなし)で出したものであり、読者の加入・非加入をすすめるものではありません。判断は必ずご自身の保険証券と保険会社の説明で確認してください。筆者は保険の専門家ではありません。


コメント