吸ってしまった。
まだ口の中に味が残っているうちに、スマホで「禁煙 1本吸ってしまった」と打ち込んだ人に向けて、この記事を書いている。
知りたいのは、たぶんひとつだけだ。これで全部リセットなのか。
先に答えを書く。リセットになった人と、ならなかった人が、両方いる。
俺は13年吸って、2017年5月28日にやめた。今日で3,378日目。ただ、この記事で使うのは俺の記憶じゃない。2026年8月に、やめた人・やめている最中の人・戻った人に直接聞いた。その6人分をそのまま並べる。
結論:6人のうち、3人は戻り、3人は戻らなかった
| その人 | 何があったか | 今 |
|---|---|---|
| 🔴喫煙歴50年・1日2箱・70代 | 禁煙3日目に「昨日は二本、今日は既に一本吸いました」と自分で書いた | 続いている |
| 禁煙8年弱の人 | 「タバコは157回失敗したので」 | 続いている(「今は吸いたい感覚はまるでありません」) |
| 俺 | 4回失敗して、5回目でやめた | 続いている(3,378日目) |
| 同じ70代の30年前 | 3年やめたあと、友達からもらった一本 | 戻った |
| 禁煙380日目の人 | 1年を越えた直後に戻った | 戻った |
| 5年やめた人 | 「5年辞めて吸い始めてます。またきっかけ作って辞めます」 | 戻った |
「1本吸ったら終わり」が正しいなら、上の3人は今ここにいないはずだ。いる。
逆に「1本くらい平気」が正しいなら、下の3人は戻っていないはずだ。戻っている。
どちらの言い方も、半分しか合っていない。
3日目に3本吸って、それでも続いている人がいる
この記事でいちばん見てほしいのが、この人だ。
50年以上、1日2箱吸ってきた70代の人。禁煙を宣言した3日目に、自分でこう書いた。
「3日目に突入。正直に申し上げます。昨日は二本、今日は既に一本吸いました。ただ、30年ほど前に禁煙したときほどはきつくないですね。」
2日目に2本、3日目に1本。合計3本。普通なら「失敗」と呼ばれる状態だ。
それでもこの人は、そこでやめなかった。日数の数え直しもしていない。今日も続いている。
俺がこの人に返した言葉は、こうだった。「吸った本数まで書いてるのが信用できます」と。
数字を隠さない人の記録は重い。逆に言えば、「1本吸った」を隠した瞬間に、記録は嘘になり、続ける理由もなくなる。
157回失敗した人が、今はまったく吸いたくないと言っている
もうひとつ、桁の違う数字がある。
「20年以上吸った後、禁煙8年弱です。(略)タバコは157回失敗したので、やはりタバコでしょうかね。今は吸いたい感覚はまるでありません。」
157回。俺は4回で、それでも自分では多いほうだと思っていた。
この人の157回目と156回目に何が違ったのかは、今聞いている最中でまだ分からない。ただ、156回失敗した事実が157回目を邪魔しなかったことだけは確かだ。
国民健康・栄養調査(平成15年)では、禁煙を試みた人の平均回数は男性4.6回・女性3.6回とされている。20年以上前の数字なので今どうなっているかは分からないが、俺が実際に聞いた範囲でも、1回で終わった人には会っていない。
では、戻った3人と戻らなかった3人の差はどこにあったか
本数ではなかった。3本吸って続いている人がいて、1本で戻った人がいる。
日数でもなかった。戻った3人は380日・3年・5年で、どれも「もう大丈夫」と言える時期だ。
| 戻った3人 | 戻らなかった3人 | |
|---|---|---|
| その1本が来た時期 | もう終わったと思っていた頃 | まだ途中だと思っていた頃 |
| その1本の出どころ | 人からもらった・きっかけがあった | 自分で吸って、自分で書いた |
| そのあとやったこと | — | 数えるのをやめなかった |
3年やめていた人が戻ったきっかけは、友達からもらった一本だった。5年やめていた人も、きっかけがあったと書いている。
つまり危ないのは、きつい時期の1本ではない。「もう自分は大丈夫」と思っている時期に、人から差し出される1本のほうだ。この話は禁煙中、飲み会の時だけ吸いたくなるにも書いた。飲み会が最後まで危ないのは、そこが「差し出される場所」だからでもある。
そして今この記事を読んでいるあなたは、たぶんまだ途中だと思っている側にいる。だから検索している。それは戻らなかった3人と同じ位置だ。
「リセット」という言葉が、何をしているか
リセットは、もともとゲームの言葉だ。電源を切って、最初からやり直す。
この言葉が禁煙に持ち込まれると、「0に戻った」と感じさせる。そして0に戻ったなら、今日いっぱい吸っても同じだ、という理屈が生まれる。1本を10本にするのは、その理屈のほうだ。
実際に起きているのは、もっと単純なことだと思う。吸わなかった日が何日かあって、今日1本吸った。それだけだ。
ここで日数を0に戻すと、記録が消える。記録が消えると、次に見る数字がなくなる。数字がなくなると、やめている理由が「気持ち」だけになる。俺が4回失敗したのは、たぶんそこだった。
意志の量の話ではない、というのはこの記事全体を通しての立場だ(→禁煙できないのは「意志が弱い」からではない)。
吸ってしまった今日、やることは3つ
| やること | 中身 |
|---|---|
| ①本数を書く | 「1本」でも「3本」でも、そのまま書く。隠すと記録が嘘になる。50年吸っていた人も、自分で本数を書いていた |
| ②日数は0に戻さない | 数え直すのではなく、その日に「吸った」と1行足すだけにする。記録を消さない |
| ③次の24時間だけ決める | 「一生吸わない」を今日決めない。今夜寝るまでだけ決める |
それと、今日いちばんやってはいけないのは残りの箱を持ったまま寝ることだ。20年やめている人が言っていたのは、これだけだった。
「(箱を捨てて)一緒に目に付くライターも全部捨てました。それから20年間吸ってません」
1本吸った日は、箱が手元にある日でもある。明日の朝いちばんの判断を、今夜のうちに減らしておく。
俺の4回について、書けることと書けないこと
俺は4回失敗して、5回目でやめている。
ここで「4回目はこういう1本で戻りました」と書ければ記事は締まる。でも書けない。どの回も、どこで戻ったのか覚えていないからだ。
覚えているのは、戻ったあとの感覚だけだ。「まあ、そのうちまた」と思っていた。その「そのうち」が来るまで、次は数年かかった。
だから今、やめている最中の人に毎日1人ずつ聞いている。この記事の中身がほとんど他人の言葉なのは、そういう理由だ。
ちなみに5回目でやめられた時、いちばん違ったのは気合いの量ではなかった。金額を数え始めたことのほうだった。数字は、気持ちが折れた日も勝手に増えていく。
まとめ
- 6人のうち3人は戻り、3人は戻らなかった。「1本で終わり」も「1本くらい平気」も、半分しか合っていない
- 50年吸っていた人は3日目に3本吸って、それでも続けている。本数では決まらない
- 157回失敗した人が、今は「吸いたい感覚はまるでない」と言っている。回数でも決まらない
- 戻った3人は380日・3年・5年。危ないのはきつい時期ではなく「もう大丈夫」と思っている時期に人から差し出される1本
- 今日やることは3つ。本数を書く/日数を0に戻さない/次の24時間だけ決める
- そして箱を持ったまま寝ない
今日1本吸ったことは、消せない。でも、それを「終わり」と呼ぶかどうかは、まだ決まっていない。
3日目に3本吸った70代の人は、今日も続けている。決めているのは本数ではなく、その次の一日だ。
まずは、今日を吸わずに終える。今日はもう吸ってしまったなら、明日を吸わずに終える。それだけでいい。


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