金曜の夜。乾杯して、2杯目が空いたころ。急に、あの1本が欲しくなる。
翌日は平気なのに、酒が入った時だけ来る。それで「禁煙 飲み会の時だけ」と打ち込んだ人に向けて、この記事を書いている。
たぶん今、こう思っているはずだ。飲み会を断ればいいのか。それとも自分は、意志が弱いのか。
先に、俺の立ち位置を書いておく。13年吸って、2017年5月28日にタバコをやめた。今日で3,378日目。ただし、酒はやめていない。今も週に4回は飲んでいる。
禁煙ブログを書いている人間としては格好がつかない。でもこの記事に関しては、そこが唯一の強みになる。俺は今も、あなたと同じ席に座っている。
そして2026年8月、まさにこの質問がSNSに投げられていた。
「禁煙成功した人に聞きたい。酒飲んだら吸いたくならん?いまだになるんやが!!」
投稿したのは40代の人だ。3.5万回見られて、36件の返事がついていた。その返事を全部読んで、答えを1人ずつ拾った。以下は、その9人分の記録だ。
結論:消える。ただし、全員ではない
先に答えを書く。4人は消えたと言い、3人は今も来ると言い、1人はいったん消えたのに戻った。
| その人の状態 | 本人の言葉 | 今 |
|---|---|---|
| 禁煙190日目 | 「毎日、晩酌してますが、もう吸いたいとは思わなくなりました」 | 消えた |
| 俺(禁煙9年) | 最初の1年は飲むたびに来た。1年くらいで来なくなった | 消えた |
| やめて15年 | 「今ではニオイが苦手になりました」 | 消えた |
| 年数不明 | 「酒好きで飲むと吸いたくなってましたが、ジョギングにハマると未練なくなりました」 | 消えた |
| 質問した本人(40代) | 「いまだになる」 | 来る |
| 年数不明 | 「吸いたいよ。ずっと。でも吸わない」 | 来る |
| 年数不明 | 「ニコチン大魔王の仕業です」 | 来る |
| 5年やめて再開 | 「5年辞めて吸い始めてます。またきっかけ作って辞めます」 | 戻った |
残る1人は、まったく別のことを言っていた。そこは最後に書く。
この表を見て、がっかりしたかもしれない。「◯日で消えます」と言い切ってくれる記事のほうが、読んでいて気持ちがいい。でも実際に聞いたら、こう割れた。だから、こう書く。
消えた人は、日数で消えていない
ここがこの記事でいちばん書きたいところだ。
消えた4人の年数は、190日・約1年・15年・不明。バラバラだ。ところが、言っている中身はきれいに揃っている。
| 本人の言葉 | 何が起きたか |
|---|---|
| 「吸っても何も変わらんからなー」(190日目) | 期待しなくなった |
| 「今ではニオイが苦手になりました」(15年) | 意味が変わった |
| 「ジョギングにハマると未練なくなりました」 | 別のものが入った |
3つとも、「我慢できる量が増えた」という話をしていない。タバコの側の値打ちが下がった、という話をしている。
禁煙190日目の人は、毎日晩酌をしている。酒の席から逃げたわけではない。同じ席に座ったまま、タバコが「効くもの」ではなくなった。
だから、残念だが「あと何日耐えれば消えますか」という問いに、この記事は答えられない。耐えた日数ではなく、タバコに何を期待しているかが変わった時に消えている。
なぜ、飲み会「だけ」なのか
翌日は平気なのに、なぜ酒の席でだけ来るのか。
俺は今、禁煙中の人に「いちばんきつい場面はどこか」を毎日聞いてまわっている。そこで分かったのは、きつい場面というのは症状の一覧ではなく、その人が実際に吸っていた場所と時間の写しだということだった(この話は「禁煙で仕事にならない」は全員には起きないに詳しく書いた)。
飲み会が最後まで残るのは、そこが「吸っていい場所」の最後の生き残りだからだ。しかも3つが同時に重なっている。
- まわりが吸う。職場では減っても、酒の席にはまだ吸う人がいる
- 時間が長い。2〜3時間、「吸わない」という判断を何十回もやり直すことになる
- 判断力そのものが落ちる。酒はブレーキ側から先に効く
返信の中に、この構造をひとことで言い切った人がいた。
「タバコ吸ったことない人は、酒飲んでもタバコ吸いたいって思いません」
そのとおりだと思う。酒が吸わせているのではなく、酒と一緒に吸っていた記憶が呼ばれているだけだ。
つまり、飲み会で来るのは禁煙が失敗しているサインではない。まだ通っていない場所が1つ残っている、というだけの話だ。翌日が平気なことが、その証拠になる。
消えなかった人は、どうやって飲み切っているか
「消えます」だけ書いて終わる記事にはしない。消えていない人が、それでも吸わずに帰っている方法のほうが、今夜の役に立つ。
いちばん具体的だったのは、この人だ。
「吸いたいよ。ずっと。でも吸わない。本当に不味く感じるから。」
「口の中がネバネバする悪いイメージを想像する。ずっとする。そして逃げる。それしかない。」
この短い言葉の中に、3つ入っている。
| やっていること | 中身 |
|---|---|
| ①欲は消えない前提で組む | 「吸いたいよ。ずっと」=消そうとしていない。消えないまま吸わない形にしている |
| ②味の記憶で上書きする | 「不味い」「口の中がネバネバする」=美味しかった記憶に、別の記憶をぶつける |
| ③その場から離れる | 「そして逃げる」=我慢ではなく移動。トイレでも、外の空気でもいい |
「逃げる。それしかない」は、根性論に聞こえて中身は逆だ。根性は使わない。足を使う。その場に座ったまま耐える時間を、そもそも作らない。
いちばん危ないのは、きつい時期ではなく「もう大丈夫」の頃
この記事を作っていて、いちばん怖かった1行がこれだ。
「5年辞めて吸い始めてます。またきっかけ作って辞めます」
5年である。3日目でも1ヶ月目でもない。
そして俺は、別のところで同じ型の人を2人見ている。
| 戻った時期 | 状況 |
|---|---|
| 380日目 | 1年を越えた直後に戻った |
| 3年 | 友達にすすめられた1本で戻った(喫煙歴50年) |
| 5年 | 上の人 |
3人とも、いちばんきつい時期に戻っていない。「もう終わった」と思える時期に戻っている。
飲み会でいえば、危ないのは禁煙3日目の飲み会より、1年経ってからの飲み会かもしれない。3日目の人は警戒している。1年目の人は、警戒をやめている。
ここは「1本くらい大丈夫」が正しく聞こえてしまう場所だ。だから、日数が増えても、席の座り方だけは変えないほうがいい。
今夜の席で、今日からできること
準備は5つ。全部やらなくていい。店に入る前に決まってしまうものだけ選べばいい。
| やること | 理由 |
|---|---|
| 席を選ぶ(喫煙所・喫煙席から遠い側) | 意志の問題を、座る場所の問題に置き換える |
| ライターを持って行かない | 「まだ持っている」状態をやめると、迷う回数が減る |
| 手を空けない(グラスかおしぼりを常に持つ) | 吸っていた人は、手が空いた時に手が動く |
| 逃げ先を先に決めておく(トイレ/外の空気) | 来てから考えると、そのまま喫煙所に付いて行くことになる |
| 断り方を1つだけ用意(「やめてるんで」だけ) | 説明しようとするほど話が長引き、その場に留まる |
加えて、時間の目安を1つ。危ないのは2杯目のあとだと、俺自身は思っている。1杯目はまだ素面に近く、3杯目以降は「今さら吸うのも」という判断が働く。真ん中がいちばん薄い。
それでも来たら、その場から動く。消えるのを待つのではなく、席を外して戻る。1回の飲み会でそれを2回やれば、その夜は終わる。
ちなみに「タバコの代わりに何かを置く」という考え方もあるが、順番としては後回しでいい。まず席と動線。この話は禁煙の5つの壁と乗り越え方に書いた。
「結局は気合いと根性」という意見も、そこにあった
最後の1人だ。返信の中に、こう書いた人がいた。
「結局最後は精神論。気合いと根性」
この記事の主張とは真逆だ。都合が悪いので消してもいいのだが、消したらこの記事は「9人に聞いた」ではなくなる。だから、そのまま載せる。
そのうえで、俺の実績を書いておく。俺はその方法で4回失敗している。気合いでやめて、気合いが切れて戻る。それを4回やった。5回目にやめられた時、いちばん違ったのは気合いの量ではなかった(この話は禁煙できないのは「意志が弱い」からではないに書いた)。
だから、こう書くのがいちばん正確だと思う。気合いで消える人は、本当にいる。ただしそれは、消えなかった人が意志の弱い人だという話には、まったくならない。
俺の場合。そして、書けないこと
自分のことも書いておく。
- やめてから最初の1年くらいは、飲むと必ず吸いたくなった
- 1年くらいで、来なくなった
- 今(9年目)は、飲んでもまったく来ない
そして、ここは正直に書く。いつ消えたのか、俺は覚えていない。
「◯◯日目に、ふっと消えました」と書けば、記事はきれいに閉まる。でもそれは作り話になる。気づいたら来なくなっていた、としか言えない。
覚えていないから、代わりに人に聞いている。この記事の中身がほとんど他人の言葉なのは、そういう理由だ。
それと、俺は酒をやめていない。やめずに済んだ、とも言える。タバコをやめても飲み会はなくならなかったし、なくす必要もなかった。減ったのは、席を立って喫煙所へ行っていた時間と、タバコに払っていた金のほうだ。
まとめ
- 9人に聞いたら、消えた4人/今も来る3人/戻った1人に割れた。「全員消えます」は嘘になる
- 消えた人の年数は190日・1年・15年とバラバラ。日数ではなく「期待しなくなった/意味が変わった/別のものが入った」時に消えている
- 飲み会だけ来るのは失敗ではない。まわりが吸う・時間が長い・判断力が落ちるが重なった、最後の1か所というだけ
- 消えていない人の実務は「欲は消えない前提/味の記憶で上書き/その場から離れる」
- 戻った3人は380日・3年・5年。危ないのはきつい時期ではなく「もう大丈夫」の頃
- 今夜やるのは5つ。席・ライター・手・逃げ先・断り方。全部、店に入る前に決まる
今夜あなたが吸いたくなったとしても、それは9年やめた人間の身にも、1年目までは毎回起きていたことだ。
消えるかどうかは、正直に言えば分からない。でも「今夜、1杯目から会計まで吸わずに帰る」は、今夜だけの話なので確実にできる。
それを1回やるたびに、飲み会という場所は、少しだけ「吸う場所」ではなくなっていく。俺の場合、それが数えきれない回数積み上がって、いつの間にか来なくなっていた。
まずは、今日の席を吸わずに帰る。それだけでいい。


コメント