「韓国はパチンコを全部なくしたらしい」
この話を聞いたことがある人は多いと思う。そして検索してここまで来た人の多くは、たぶん業界の話が知りたいわけじゃない。自分か、家族の誰かが、パチンコから抜けられていない。だから「消せた国がある」という話に引っかかった。俺もそうだった。
俺は20年パチンコをやって、ざっと計算して720万円溶かした。月3万円が当たり前で、それを「趣味の範囲」だと思っていた。今はゼロだ。
今回、韓国で何が起きたのかを一次資料まで戻って調べた。結論から書くと、想像とはかなり違った。そして調べ終わったあと、自分がやめられた理由のほうが、はっきり説明できるようになった。
まず、韓国に「パチンコ」は無かった
いきなり前提を崩して申し訳ないが、これは押さえておかないと話が全部ずれる。
韓国にあったのは메달치기(メダルチギ)という遊技機だ。日本語の記事では「韓国版パチンコ」と書かれることが多いが、中身は別物になる。
- 玉ではなくメダルを使う
- 釘もスタートチャッカーも無い
- 実態はカジノのスロットマシンをそのまま流用したもの
共通しているのは「内部プログラムで当たりを抽選する」「中央に液晶がある」くらいだ。だから正確に言えば、韓国が消したのは「パチンコ」ではなく「換金できるゲーム場」ということになる。
ただ、ここが大事なところで――換金の仕組みは、日本とそっくりだった。
換金の仕組みが、日本の三店方式とほぼ同じだった
日本のパチンコが賭博にならない理由は、いわゆる三店方式にある。1961年(昭和36年)に大阪府警が認めたもので、①ホール ②景品交換所 ③特殊景品の卸業者、の三者が別々になっている。客はホールで特殊景品をもらい、それを別の場所で買い取ってもらう。ホールが現金を渡していないので、賭博ではない、という理屈だ。
韓国も、同じことをやっていた。使われたのは「景品用商品券」だ。
もともと韓国政府は「商品券は射幸性を煽るからゲーム場の景品に認められない」という立場だった。それが変わったのが2002年のワールドカップ前で、観光商品券に加えて図書・文化商品券まで景品として認めた。
当たる → 商品券をもらう → 換金所で現金にする。店は現金を渡していない。日本と同じ構造だ。
1機種が、全部を壊した
2004年に登場したのが「바다이야기(パダイヤギ/海の物語)」という機種だった。
当時の法定払い戻し上限は200倍。この機種はそれを大きく超える25,000倍で射幸心を煽った。
そして問題はここからで、その違法機を、政府の等級審査機関が通していた。のちに賄賂の疑惑として大問題になる。
規模:国家予算の3割が、商品券で動いていた
数字を並べる。すべて2006年8月時点、韓国政府(文化部)と当時の報道による。
| 項目 | 数字 |
|---|---|
| 成人用ゲーム場 | 15,618店 |
| バダイヤギ設置店 | 全国 16,000店あまり |
| 1店あたりの設置台数 | 約50台 |
| 商品券の発行会社 | 18社 |
| 2006年8月の1ヶ月の流通額 | 2兆7,685億ウォン |
| 2005年8月〜2006年9月の累計 | 32兆8,538億ウォン |
32兆8,538億ウォン。当時のレート(おおよそ1円=8ウォン)で換算すると約4.1兆円だ。
ただ、金額よりも、韓国政府の資料にあるこの一行のほうが効く。
事態以前までの1年間に発行された景品商品券の流通額は最低30兆ウォンで、2006年の韓国政府の総予算の30%に迫った。
国の予算の3割に相当する金が、ゲーム場の景品券として1年で動いていた。もはや遊びの規模ではない。
政府が抜いたのは、たった1本だった
2006年8月、この件は全国を揺るがす社会問題になる。
8月22日、当時のハン・ミョンスク国務総理が文化部を訪問。その2日後、総理公邸で「射幸性ゲームの拡散を早期に遮断できなかった」と認めた。一国の首相が公式に謝罪している。
そして政府がやったことは、意外なほどシンプルだった。
台を禁止したのではない。「景品用商品券」を廃止した。
- 2007年1月:ゲーム産業振興法を改正。射幸性ゲーム物を合法ゲームの範疇からそもそも外し、等級を保留して流通を止められるようにした
- 2007年4月末:景品用商品券制度を完全廃止
- 2007年9月17日:国務総理直属の「射幸産業統合監督委員会」が発足
換金という出口を1本抜いた。それだけだ。
結果:15,618店が、278店になった
出口を失った店は、商売として成り立たなくなった。
| 店舗数 | |
|---|---|
| 2006年8月(事態直前) | 15,618店 |
| 2023年(一般ゲーム提供業の営業許可) | 278店 |
98.2%減。アーケード市場全体でも89%が消えた。
ここまでが、日本語で読める記事のほとんどが書いている内容だ。「韓国は全廃できた」「日本もやればできる」。
ただ、俺が知りたかったのはその先だった。店が消えて、人はどうなったのか。
ここからが本題:それでも、依存は減らなかった
調べていていちばん手が止まったのが、この部分だ。
| 韓国の現在 | 数字 |
|---|---|
| 合法ギャンブルの総売上(2024年) | 25兆3,000億ウォン(前年比 +3.5%) |
| 違法賭博の市場規模(2022年推計) | 約103兆ウォン |
| 合法と違法の比率 | 違法が合法の約4倍 |
| 成人の賭博問題の有病率 | 5.1%=約223万人 |
103兆ウォンは、今のレート(おおよそ1円=9.5ウォン)で約10.8兆円になる。合法の市場を丸ごと4つ分、闇のほうが大きい。
しかも、消えたはずのゲーム場が戻り始めている。営業許可を取った成人ゲーム場は2022年215件 → 2023年278件と増えた。増えている場所が都心ではなく農漁村だというのが、また重い。地方紙には「数千万ウォンを失った住民」の話が載っている。ある地方警察は、1ヶ月の集中取り締まりで違法ゲーム場を249カ所摘発した。
そして、いちばんきついのが若い世代の数字だ。
- 小中高生の4.3%が賭博の経験あり(約16万7,000人と推計)
- そのうち最も多いのがオンラインカジノの違法賭博で59.0%
- 相談利用者に占める14〜16歳の比率は、2020年の12.8%から2024年には20.6%へ
店は消えた。人は消えなかった。スマホに移っただけだった。
ここは正直に書いておく。日本と韓国の依存率を並べて「韓国のほうが多い」とは言えない。線の引き方が違うからだ。韓国の5.1%は「中リスク+問題性」の合計で、日本の数字は「問題性」だけを数えている。同じ物差しではない。だから比較はしない。
比較しなくても、事実は1つ残る。換金の出口を塞いだ国で、賭博の問題は今も大きくなり続けている。
日本は禁止していない。それでも店は65%減った
もう一つ、意外だったのがこっちだ。
| 数字 | |
|---|---|
| パチンコホール数(1995年・ピーク) | 18,244店 |
| パチンコホール数(2025年末) | 6,464店 |
| 減少率 | 約65%減 |
| 市場規模(2005年・ピーク) | 約34.86兆円 |
| 市場規模(2025年) | 16.2兆円 |
日本は法律で禁止していない。三店方式も1961年から変わっていない。それでも30年で店は3分の1になり、市場は半分以下になった。
韓国は1年で98%。日本は30年で65%。やり方はまったく違うが、どちらも減っている。
ただし、日本でも人のほうは残っている。2023年度の厚生労働省の調査では、過去1年でギャンブル等依存が疑われる人は全体の1.7%(男性2.8%・女性0.5%)。そして年代別で最も高いのが――
40代で2.4%。
この記事を読んでいる人の年代と、たぶん重なる。俺もそこにいた。
俺が月3万円をゼロにしたとき、やったこと
ここまで調べて、自分のことがようやく説明できるようになった。
俺は20年やって720万円を溶かした。月3万円。やめられたときのことを思い返すと、根性を出したわけでも、決意を固めたわけでもない。
正直に書くと、タバコをやめたら、パチンコのほうが勝手に倒れた。行く理由だった「時間の潰し方」と「金の出口」が、先に変わってしまったからだ。(この連鎖は万能ではない。その証拠に、俺は酒だけは今もやめていない)
そして今回、韓国の資料を読んで腑に落ちた。韓国政府がやったのと、構造は同じだった。台を憎んだわけでも、意志を鍛えたわけでもない。出口を1本抜いただけだ。
だからこそ、言えることが2つある。
1. これは意志の話ではない
国が仕組みを1本抜いただけで、15,618店が278店になった。15,618店ぶんの人間が、同じ月に急に意志を強くしたわけがない。仕組みが変われば、行動は変わる。逆に言えば、仕組みが残っている限り、意志で押さえ続けるのは無理がある。
詳しくはパチンコがやめられないのは意志が弱いからじゃない|720万円溶かした40代が電卓で気づいた「勝負ですらなかった」話に書いた。
2. ただし、受け皿がないと移るだけだ
これが韓国が教えてくれた、いちばん高い授業料の部分だ。店を消しても、そこにいた人の時間と金の行き先は消えない。韓国ではそれがオンラインに移った。103兆ウォンの闇市場と、オンラインカジノに流れた子どもたちが、その答え合わせになっている。
「やめたあとの空白をどうするか」についてはパチンコをやめて何する?代わりを先に探すのは順番が逆だったに、実際に会った人の話を書いた。オンライン側の話はオンラインカジノのやめ方にまとめてある。
あなたが今日、手元で抜ける「1本」
国レベルの話は、正直どうにもならない。日本で商品券に当たるもの(三店方式)が明日なくなることは、まず無い。
でも「出口を1本抜く」は、個人でも今日できる。韓国がやったのはそれだけだからだ。
- 金の出口を1本抜く:財布に入れる現金の上限を決める。ATMのカードを店に持って行かない。これが韓国の「商品券廃止」に当たる部分になる
- 時間の出口を先に埋める:やめてから何をするか探すのではなく、先に予定を入れる。空白ができてから探すと、いちばん近い店に戻る
- 金額を1回だけ数える:俺は月3万円を20年分にして、はじめて720万円という数字を見た。数えるまで「趣味の範囲」だと思っていた。意志が弱かったんじゃなく、数字にして見ていなかっただけだった
具体的な手順はパチンコのやめ方|720万円溶かした氷河期40代が実践した7ステップ【意志に頼らない】にまとめた。
なお、日本側の運用がどうなっているかは、釘を見ると分かる。店が釘を触るのは風営法違反だが、2015年に全国258台を調べたところ検定どおりの台は1台もなかった(パチンコの釘を触るのは違法だった)。韓国は1本抜いて店を減らした。日本は、抜かないまま全部が違反状態だった。
まとめ:韓国が証明したこと、証明できなかったこと
証明したこと
- 換金の出口を1本抜けば、15,618店は1年ちょっとで278店になる
- つまり、あれは意志の問題ではなく、仕組みの問題だった
証明できなかったこと
- 店を消しても、依存は消えない(違法賭博103兆ウォン/成人の5.1%/中高生の4.3%)
- 行き先を用意しないと、より見えない場所に移る
「韓国は全廃できたのに日本は」という話で終わらせると、たぶん何も変わらない。本当に持ち帰るべきなのは、国が15,618店を消したのと同じことを、自分の手元でもできる、という一点だ。
俺は20年かけて720万円を渡してから、やっとそれをやった。月3万円は今ゼロになっている。遅すぎたとは思っていない。
40代、まだ間に合う。
この記事で使った数字の出どころ
- 韓国のゲーム場数・商品券流通額・政府対応:韓国文化体育観光部資料および当時の韓国報道(電子新聞ほか)
- 2023年の成人ゲーム場許可数(278件):韓国の地方自治体許認可統計に基づく報道
- 韓国の合法ギャンブル売上25.3兆ウォン・賭博問題有病率5.1%:射幸産業統合監督委員会(2024年)
- 違法賭博103兆ウォン:射幸産業統合監督委員会 第5次違法賭博実態調査(2022年基準)
- 青少年の賭博実態(4.3%・オンラインカジノ59.0%):2024年 韓国青少年賭博実態調査
- パチンコホール数・市場規模:警察庁統計およびレジャー白書
- 日本の依存疑い1.7%・40代2.4%:厚生労働省「令和5年度 ギャンブル障害及びギャンブル関連問題実態調査」
- ウォン→円の換算は、2006年当時を1円=8ウォン、現在を1円=9.5ウォンで概算した


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