禁煙して数日。会議の内容が頭に入ってこない。手が止まる。同僚の言い方にいちいち引っかかる。
昼休みにスマホを開いて「禁煙 仕事にならない」と打ち込んだ人に向けて、この記事を書いている。
たぶん今、こう思っているはずだ。このままだと周りに迷惑をかける。1本吸って落ち着かせたほうが、みんなのためなんじゃないかと。
俺は13年吸って、2017年5月28日にやめた。今日で3,375日目だ。ただ、この記事で使うのは俺の記憶じゃない。
2026年8月に、禁煙中の5人へ「仕事とタバコ」を直接聞いた。その答えが、きれいに割れた。
結論:「仕事にならない」は、全員には起きていない
先に答えを書く。聞いた5人のうち、4人は仕事のどこかできつくなり、1人は逆に「仕事のおかげで忘れていた」と言った。
| 禁煙の経過 | 本人の言葉 |
|---|---|
| 100日目 | 「仕事が始まったせいか、とても吸いたくて候」 |
| 9日目(連休明けの前夜) | 「明日からいよいよ仕事再開。休憩時間やストレスとの付き合い方が試される、本当の正念場」 |
| 3日目(夜勤あり) | 「昨日夜勤でめちゃめちゃイライラしました。シンプルにタバコがないからか」 |
| 7日目 | 「強いて言えば仕事終わりがキツいですかね」 |
| 3日目 | 「仕事に集中してしまったらタバコの事忘れていました。笑」 |
いちばん下の1人だけ、話が逆になっている。
この人にとって仕事は、吸いたくなる原因ではなく、忘れていられる時間だった。
同じ「禁煙3日目」で、正反対の2人がいた
ここがこの記事でいちばん書きたいところだ。上の表の3日目の2人は、同じ日に、同じ3日目だった。
| Aさん(夜勤あり) | Bさん | |
|---|---|---|
| その日の言葉 | 「些細なことでイライラ止まらん。感情の起伏が大きい。めちゃくちゃ眠たい。」 | 「革命が起きました。(略)ほとんどの人はまだ吸いたい欲が来ると思いますが、俺には来なかった」 |
| 仕事との関係 | 「仕事終わったら即寝ます」 | 「仕事に集中してしまったらタバコの事忘れていました。笑」 |
「禁煙3日目はこうなる」という一本の答えは、作れない。同じ3日目という場所に、真逆の2人が立っている。
片方だけ書いたほうが、記事としては読みやすくなる。でもそれは嘘になるので、両方書く。
分かれ目は意志じゃない。「どこで吸っていたか」だった
ではなぜ割れるのか。答えのヒントは、まったく別の質問から出てきた。
禁煙中の人に「いちばんきつい場面はどこですか」と聞いてまわると、ほとんどの人が食後と答える。17年やめている人も、9日目の人も、同じことを言う。年数が全然違うのに、食後だけは重なる。
ところが禁煙7日目のある人だけ、こう答えた。
「元々家では吸ってなかったので、食後とかはあまり違和感ないですね。強いて言えば仕事終わりがキツいですかね。」
食後が平気な理由を、本人が自分で言っている。家では吸っていなかったからだ。
つまり「きつい場面」は、体に起きる症状の一覧じゃない。
その人が実際にタバコを吸っていた、場所と時間の写しだ。症状表というより、生活の間取り図に近い。
仕事も、まったく同じ理屈で割れる。
| 吸っていた場所 | やめた後、来る場所 |
|---|---|
| 仕事中、喫煙所やベランダに行っていた | 仕事中に来る |
| 職場では吸えず、終わってからの1本だった | 仕事終わりに来る |
| 仕事中は忙しくて吸う暇がなかった | 仕事中は来ない(むしろ忘れる) |
意志が強いから平気なんじゃない。吸っていた場所に、今日いないだけだ。
逆に言えば、仕事にならない人は意志が弱いわけでもない。毎日8時間、吸っていた場所のど真ん中に座らされているだけだ。条件が違いすぎる。
自分がどの型か、30秒で分かる
紙もアプリもいらない。3つ思い出すだけでいい。
- 仕事中、喫煙所やベランダに「行って」いたか
- 1日の最後の1本は、どこで吸っていたか(職場の出口・車の中・家の玄関)
- 夜勤や交代勤務があるか
| 型 | 当てはまる人 |
|---|---|
| A:仕事中型 | 1で「行っていた」人 |
| B:仕事終わり型 | 2が職場の外だった人 |
| C:不規則型 | 3がある人 |
ここから先は、型ごとに違うことを書く。全部やる必要はない。
型別に、今日からできること
A:仕事中型 ── 動線を消す
やることは1つ。喫煙所に「向かう足」を止めるのではなく、向かう理由を先に消す。
禁煙3日目のある人は、こうしていた。
「できる限り視界に入れないようにしてます」
ただし、この人は翌朝こう続けた。ここを省くと役に立たない記事になるので、そのまま書く。
「入ってきてしまう時がヤバいです。中毒依存反応がすごいです。」
つまり、環境をいじる目的は「ゼロにすること」じゃない。回数を減らすことだ。完全に遮断できると期待すると、入ってきた1回で折れる。
20年前にやめた人は、もっと単純なことをしていた。
「(箱を捨てて)一緒に目に付くライターも全部捨てました。それから20年間吸ってません」
職場でいえば、机の中のライター、上着のポケット、車のドリンクホルダー。「まだ持っている」状態をやめるだけで、迷う回数が減る。
そしてもう1つ。仕事中に喫煙所へ行っていた人が本当に失っているのは、ニコチンじゃないことが多い。3分だけ何もしなくていい時間のほうだ。この話は禁煙の5つの壁と乗り越え方に詳しく書いた。タバコの代わりを探すより、休憩の代わりを先に作ったほうが早い。
B:仕事終わり型 ── 帰り道と、寝る時間
この型の人の答えは、驚くほど揃っていた。寝るだ。
| 禁煙3日目の人 | 「仕事終わったら即寝ます」 |
|---|---|
| 禁煙4日目の人 | 「離脱症状が出てきたら、とりあえず寝る。」 |
この2人は面識がなく、別々の日に、別々の場所で同じことを言っている。
根性論に見えるかもしれないが、逆だ。起きている時間を短くすれば、判断する回数が減る。仕事終わりの1〜2時間さえ通過すれば、その日は買わずに終わる。
あわせて、帰り道を変える。コンビニの前を通らないルートに変えるだけでいい。最初の数日、いちばん危ないのは「帰り道にコンビニがある」という事実そのものだ。
C:不規則型 ── 夜勤の日は、予定を足さない
夜勤でイライラした人は、その日「仕事終わったら即寝ます」と書いていた。夜勤明けに用事を入れない。それだけで、判断しなければならない場面が丸ごと消える。
禁煙とシフト勤務が重なった週は、禁煙以外の新しいことを何も始めないほうがいい。
いつまで続くのか。4日ぶんの記録が、1人分ある
「いつ終わるのか」がいちばん知りたいところだと思う。1人の人が、1日目から4日目までを毎日書いてくれた記録があるので、そのまま並べる。
| 日 | 本人の言葉 |
|---|---|
| 1日目 | 「イライラなんてない。無意識に棚やカバンを弄って、あ、やめる途中やったわーってなってる」 |
| 2日目 | 「シールが取れなくて最高にイライラしすぎて畳殴ってた」 |
| 3日目 | 「クリップがつまめなくてひぃぃぃん」「昨日眠かったです既に。昼休み30分寝てました」 |
| 4日目 | 「特に変化なし。めちゃくちゃ吸いたいとかも特になし。ご飯が美味しい。」 |
イライラ → 眠気 → 平坦。4日で山を越えている。
面白いのは、2日目・3日目のイライラの中身だ。シールが取れない。クリップがつまめない。どちらも仕事や生活の、どうでもいい細かい作業だ。「仕事にならない」の正体は、大きなストレスではなく、こういう小さい作業でいちいち切れることだったりする。
眠気については、聞いた7人のうち6人が3〜4日目に出たと答えている。医学の一般論ではなく、俺が1人ずつ聞いた実数だ。
ただし、ここは俺が外したところなので正直に書く。俺はこの人に「3〜4日目に眠気が来ます」と予告したが、実際には2日目の時点で「昨日眠かったです既に」と返ってきた。1日早かった。
山の形はだいたい合っていた。タイミングは人によってずれる。
俺が「仕事のどこがきつかったか」を書かない理由
ここまで読んで、「で、あんたはどうだったんだ」と思ったはずだ。
正直に書く。覚えていない。
9年前のことだ。仕事中に来たのか、終わってからだったのか、何日目が底だったのか、思い出せない。
覚えているのは1つだけで、まわりが当たり前に吸っている場所で、やめたということだ。誰も応援してくれないし、宣言もしなかった。
その職場のことを、あとからもう一度考えた。吸っていた13年、俺は「タバコ」と言うだけで席を立てて、一度も理由を聞かれたことがない。やめて分かったのは、無くなったのが5分ではなく、説明しなくていい権利のほうだったということだ。禁煙で仕事がきつくなる人がいるのは、ニコチンだけの話ではないのかもしれない。
ここで思い出せない話を作れば、記事は分厚くなる。でもそれは作り話だ。だから書かない。
そのかわり今、やめている最中の人に、毎日1人ずつ聞いている。この記事の中身が全部そこから来ているのは、そういう理由だ。
今日で3,375日目。タバコに払わずに済んだ金が2,130,947円、吸うために使わずに済んだ時間が3,375時間。数字は毎朝増えていく。
まとめ
- 「禁煙で仕事にならない」は全員には起きない。聞いた5人のうち1人は、仕事があったから忘れられたと言った
- 分かれ目は意志ではなく、自分がどこで吸っていたか。きつい場面は症状表ではなく、生活の間取り図
- A仕事中型=動線とライターを消す。狙いはゼロにすることではなく、迷う回数を減らすこと
- B仕事終わり型=帰り道を変えて、早く寝る。2人が別々に「寝る」と答えた
- C不規則型=夜勤の日に予定を足さない
- 1人分の記録では、イライラ→眠気→平坦が4日。眠気は7人中6人が3〜4日目
今日、仕事にならなかったのは、あなたの能力の話じゃない。吸っていた場所に、吸わずに座っていただけだ。
明日も同じ場所に座る。でも、座る回数が増えるほど、その場所は「吸う場所」ではなくなっていく。俺の場合、それが3,375回続いた。
まずは、今日を吸わずに終える。それだけでいい。


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