また席を立った。
1時間おきに、5分か10分。戻ってくると、においがする。こっちはトイレに行くのにも一声かけているのに、あの人は「ちょっと」と言って消えて、誰にも何も言われない。
ずるい、と思う。でも口に出せない。言った瞬間、心の狭い人間になる気がする。
検索すると、出てくるのは「法律上は問題ない」「職務専念義務の解釈による」「会社が制度を整えるべき」。どれも正しいのだろうけど、モヤモヤは1ミリも減らない。
先に立場を書く。俺は13年吸って、9年前にやめた。あの5分を、もらい続けていた側だ。今はもらえない側にいる。
両方に立ったから書けることが、ひとつだけある。
結論:ずるいと感じたのは正しい。ただし、ずるかったのは5分ではない
ずるかったのは、理由を説明しなくてよかったことだ。
時間の長さの話ではない。5分をどう通したか、の話だ。
13年吸っていて、俺は一度も「どこへ行くのか」と聞かれたことがない。「タバコ」と言えば通った。それ以上の説明を求められた記憶が、ひとつもない。
やめてから気づいた。なくなったのは5分ではなく、説明しなくていい権利のほうだった。
法律を読んだら、タバコ休憩は「休憩」ではなかった
労働基準法の条文を実際に開いた。休憩について定めているのは第34条で、中身は3つしかない。
| 労働基準法34条 | 書いてあること |
|---|---|
| 1項 | 労働時間が6時間を超える場合は少なくとも45分、8時間を超える場合は少なくとも1時間の休憩を、労働時間の途中に与えなければならない |
| 2項 | 前項の休憩時間は、一斉に与えなければならない(労使協定があるときは例外) |
| 3項 | 使用者は、休憩時間を自由に利用させなければならない |
ここで引っかかったのが2項だ。
法律が想定している休憩は、全員が同時に取るものだ。昼休みがまさにそれで、だから一斉に取る。
タバコ休憩は違う。1人だけ席を立つ。
そして条文のどこにも、タバコという言葉は出てこない。あの5分は、法律が与えたものではない。職場が黙認していただけのものだ。
だから「ずるい」と感じるのは、感情的でも心が狭いのでもない。権利ではないものが、権利のように扱われていたから、正確におかしいのだ。
労務のメディアでは「職務専念義務」を根拠に議論されることが多いし、「タバコ休憩を休憩とみなして賃金を控除する」という案も出ている。ただしどれも、会社が就業規則を変えないと動かない話だ。今日のあなたには使えない。
吸わない人から、いちばん鋭い一言が来た
俺はいま毎晩、SNSで喫煙者・元喫煙者に直接聞いている。そこで吸わない側の人から届いたのが、これだった。
いつも疑問なのは、勤務時間中に5分10分喫煙所で喋る…ってのは誰も何も気にしないけど、5分休憩室にテレビを見に行ったらきっと怒られるよね。この違いは…
同じ5分だ。長さは1秒も違わない。それなのに、片方は通って、片方は通らない。
これが「ずるい」の正体だと思った。奪われていたのは時間ではない。通し方だ。
ただし、その人に「ずるいですか」と聞いたら、答えが違った
ここで終わればきれいな記事になる。でも、同じ人にもう一歩聞いてみた。「吸わない側から見て、あの5分はズルいですか。それともうらやましいですか」と。
返ってきたのは、こうだった。
まず答えとしては、全く何も気にしてなかったが答えです。ズルいとかあまり考えたこともなく…
ただ、ふとした時に、例えばその辺にボケっと5分10分突っ立ってたら、お前何してる?って言われる気がしますが、喫煙OKならそれもありじゃない?って思ったくらいです
外れた。不公平の話を聞いているつもりだったのに、本人は不公平だと思っていなかった。
ただ、後半をもう一度読んでほしい。
「ボケっと5分10分突っ立ってたら、お前何してる?って言われる気がする」
ずるいとは思っていない。それでも、自分が同じ5分を取ったら説明を求められることは、はっきり分かっている。
ここが、この記事でいちばん確かめられたことだった。
「ずるい」と感じるかどうかは人による。でも「説明を求められるかどうかの差」は、感情と関係なく、実際にそこにある。ずるいと思っていない人にも、その差は見えていた。
だから、もしあなたがずるいと感じているなら、それは心が狭いからではない。感じていない人にも見えている差を、あなたは感じ取っているだけだ。
あの5分は、2種類の許可だった
取材を続けていて、もうひとつ出てきた。
「タバコをタイマー代わりにする」と書いていた喫煙者の方に、それは長さを測るほうか、区切りをつけるほうか、と聞いた。返ってきたのは「どっちも」で、続きがこうだった。
区切りの方は、落ち着きたい時、考え事をしたい時、その場に浸りたい時など、自分自身に気持ちを向けたい時のルーティンにもなってます
ここで、2つが並んだ。
| 許可の種類 | 誰に対する許可か | 中身 |
|---|---|---|
| 席を外す許可 | 他人(上司・同僚) | 理由を説明せずに立てる |
| 気持ちを向ける許可 | 自分 | 落ち着く・考える・浸ることを、自分に許す |
向きが正反対の許可が、1本のタバコに同居していた。
吸う人は、1本でこの2つをまとめて買っていた。吸わない人は、どちらも自分で取りにいかないといけない。
ずるさの中身は、たぶんここまで分解できる。
数字:1本は3分。1日20本なら60分
1本が何分なのかを、聞いて数えた。
| 1本の長さ | 人数 |
|---|---|
| 3分 | 2人 |
| 5分 | 1人 |
| ※銘柄が太いものは長くなる、という声もあった | |
1日1箱=20本で計算すると、火をつけて消すまでだけで1日60分になる。買いに行く時間は入っていない。
ただし、ここは正直に書く。
俺が職場で1日何回吸っていたかは、覚えていない。数えていなかったからだ。だから「1日◯分ずるい」という計算は、俺には書けない。1回何分・1日何回なのかは、いま実際に働いている人に聞いているところだ。
それでも言えることがある。やめた後にその時間を数え直したとき、返ってきた量に自分でも驚いた。使い道をひとつも思い出せないくらいには、多かった。
その許可は、タダではなかった
今週、禁煙2週間の方から返信が来た。「吸っていた時間には何が入りましたか」と聞いた答えが、これだ。
吸っていた時間に何が入ったかと言われると、特に何もないと思います。時間というよりは、買いに行く手間、なくなったら嫌だと考える時間、ストレス、子供もいるので、今吸ったらダメかとか考える時間とストレス、は無くなりましたね
読んで、自分が数える場所を間違えていたと思った。
消えたのは「吸っている時間」ではなく、「吸うかどうかを考えている時間」だった。
つまり、席を外す許可はタダでもらえていたわけではない。いつ使うかを一日中考え続けるコストを、裏で払っていた。吸わない人には、この支払いがない。
ずるいと言われる側が、必ずしも得をしているわけではない。ここは、もらっていた側として書いておきたかった。
吸わない人が、今日からできること
世の中に出ている解決策を並べると、こうなる。
| 案 | 誰が動くか | 今日できるか |
|---|---|---|
| タバコ休憩を休憩とみなして賃金を控除する | 会社 | ❌ 就業規則の変更が要る |
| 喫煙室をなくす・場所を遠くする | 会社 | ❌ 同じく会社の判断 |
| 自分も同じように席を立つ | 自分 | ⭕ できる |
動かせるのは3つ目だけだ。そして、やり方はひとつしかない。
「休憩します」と言って立つ。理由は言わない。
タバコの5分がずるかったのは、理由を説明しなかったからだ。だったら、同じことをすればいい。「タバコ吸ってきます」が通る職場で、「休憩してきます」が通らない理由はない。
条文も、休憩時間は自由に利用させなければならないと書いている。とはいえ休憩の取り方は会社ごとに就業規則で決まっているので、そこは自分の会社のものを一度見てほしい。ここは断定できない。
それと、もし相手が禁煙を始めたら、少しだけ知っておいてほしいことがある。禁煙で仕事にならなくなる人とならない人がいて、分かれ目は根性ではない。やめると同時に、席を立つ口実のほうが先になくなるからだ。
まとめ
- 労働基準法34条が定める休憩は6時間超で45分/8時間超で1時間。2項は「一斉に与えなければならない」と書いており、1人だけ抜けるタバコ休憩は、法律が想定した休憩ではない
- 条文にタバコという言葉は一度も出てこない。あの5分は法律が与えたものではなく、職場が黙認していたもの
- だから「ずるい」と感じるのは正しい。権利ではないものが、権利のように使われていた
- ただし、ずるかったのは長さではなく理由を説明しなくてよかったこと
- ⚠️ただし「ずるいと思ったことはない」という人もいた。感情は人による。それでも「自分が同じ5分を取ったら説明を求められる」という差は、ずるいと思っていない人にも見えていた
- あの1本は2種類の許可だった。他人に対する「席を外す許可」と、自分に対する「気持ちを向ける許可」
- 1本は3分(2人)/5分(1人)。1日20本なら1日60分。ただし職場で1日何回吸っていたかは、俺は覚えていない
- 許可はタダではなく、「今吸ったらダメか」と考え続けるコストを裏で払っていた
- 会社を動かす案は今日は使えない。使えるのは「休憩します」と言って立つことだけ
13年、俺はあの許可を使った。やめて9年、いまは持っていない。
持っていない側から書くと、はっきり分かる。あれは、吸うから手に入るものではなかった。ただ、席を立つ口実として、たまたまいちばん通りやすかっただけだ。
ずるいと思ったあなたは、間違っていない。足りなかったのは我慢ではなく、口実のほうだ。
40代、まだ間に合う。
【この記事で使った出典】
- 労働基準法(昭和22年法律第49号)第34条第1項・第2項・第3項(e-Gov法令検索で条文を確認)
- タバコ休憩をめぐる労務・法律メディアの論点(職務専念義務、賃金控除案など)の整理
- 喫煙者・元喫煙者・非喫煙者への聞き取り(SNS上でのやりとり。本人が特定されないよう、名前と属性の一部は伏せています)
※就業規則や休憩の運用は会社ごとに違います。法律の解釈が必要な場面では、勤務先の規程を確認してください。数字は聞き取りの実測値で、母数はまだ少ないと明記しています。


コメント